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トイレットペーパーのシェア争い|大王製紙vs日本製紙vs王子の80年戦争

著者: 安く買う.com 編集部
トイレットペーパーのシェア争い|大王製紙vs日本製紙vs王子の80年戦争

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戦後復興から寡占化への道程

日本のトイレットペーパー市場は2025年現在、約3760億円(37.6億ドル)の規模を誇り、大王製紙、日本製紙クレシア、王子ネピアの3社が市場の約60%を支配する寡占構造となっています。しかし、この市場構造は戦後80年間の激しい競争と産業再編を経て形成されたものです。特筆すべきは、静岡県富士市が国内生産量の40%を占める生産拠点として位置づけられ、豊富な富士山の水資源を活用した独自の産業集積を築いている点です。

戦後の1945年から1950年代、日本のトイレットペーパー産業は事実上の再出発を余儀なくされました。当時の一人当たりGDPは1,346ドル(1990年価値)でアメリカのわずか11%に過ぎず、トイレットペーパーは都市部の富裕層が輸入品を使用する程度で、大半の国民は伝統的な「ちり紙」や「落とし紙」を使っていました。農村部では依然として木の葉や藁などの天然素材が利用されており、水洗トイレの普及も限定的で、多くが「汲み取り式」のままでした。この時期の市場は地方の小規模製造業者が分散的に存在する断片的な構造で、政府の関心は重工業の復興に集中し、消費財産業への投資は限定的でした。

1960年代から1970年代の高度経済成長期になると、状況は劇的に変化しました。1957年から1973年にかけて年平均10%のGDP成長を記録し、東京の人口は1945年の300万人から1970年には900万人へと急増しました。1955年頃を境に「汲み取り式」から「水洗式」への転換が進み、これがロール型トイレットペーパーの需要を爆発的に押し上げました。王子製紙によれば「トイレットロール、ティッシュペーパー、ペーパータオルの販売は1970年代に始まった」とされ、この時期に本格的な市場形成が進みました。1973年10月31日には、オイルショックを契機とした「トイレットペーパー・パニック」が大阪の千里ニュータウンから全国に波及し、トイレットペーパーが国民生活に不可欠な商品として認識される象徴的な出来事となりました。

バブル経済と産業再編の時代

1980年代から1990年代初頭のバブル経済期には、日本のトイレットペーパー市場は高級化・差別化の時代を迎えました。1984年から1985年にかけて東京の商業地価格が42%上昇するなど、資産価格の高騰が消費者の購買力を押し上げ、日常品にも「贅沢」を求める風潮が生まれました。この時期、2枚重ねが標準となり、エンボス加工、香り付き、カラフルな製品(ピンク、黄色、緑、水色)が登場しました。「羽美翔インペリアル・ハウスホールド・ラグジュアリー・トイレットペーパー」のような高級品が開発され、日常品の高級化が進みました。

しかし1990年代に入ると、日経平均株価が1989年の約39,000円から半値まで暴落し、1991年から1992年にかけて不動産バブルも崩壊しました。「失われた10年」と呼ばれるこの期間、GDP成長率は年平均1.14%(1991〜2003年)まで低下し、消費者の購買行動は一変しました。業界は大規模な再編期を迎え、1992年には十条製紙(業界3位)と山陽国策パルプ(5位)が合併して日本製紙を設立し、王子製紙を抜いて17.3%の市場シェアを持つ業界トップとなりました。1993年には王子製紙が神崎製紙(7位)と合併し、1996年には本州製紙とも合併して競争力を維持しました。この時期、JIS規格によりトイレットペーパーの溶解基準(水中で100秒以内に溶解)が制定され、製品の標準化も進みました。

2000年代以降の市場成熟と競争激化

2000年代に入ると、日本のトイレットペーパー市場はさらなる統合と成熟期を迎えました。2001年に日本製紙と大昭和製紙が経営統合して日本ユニパックホールディングを設立し、2004年には日本製紙グループ本社に改称されました。この時期の特徴は、プライベートブランド(PB)商品の台頭です。イオンのトップバリュ(1974年開始、認知度60.5%)やセブンイレブンのセブンプレミアム(認知度56.3%)が市場シェアを拡大し、消費者の72.2%が価格を理由にPB商品を購入するようになりました。

2010年代の競争戦略は、製品の高機能化と環境対応が中心となりました。2枚重ね、3枚重ねの高級品が市場シェアを拡大し、FSC認証製品やリサイクル原料使用製品が増加しました。特に注目すべきは製品の長尺化で、丸富製紙は標準の6倍長(300メートル)のロールを開発し、1.5倍、2倍、3.2倍長の製品が広く普及しました。芯なし技術による廃棄物削減も進み、環境意識の高い消費者のニーズに応える展開が加速しました。

2017年の大王製紙による日清紡ペーパープロダクツの買収(買収額250億円)は、近年最大のM&A案件となりました。この買収により大王製紙の理論上の市場シェアは約31%に達し、年間生産能力は26万トンから39万トンへと50%増加しました。2017年時点で、大王製紙のホーム&パーソナルケア部門の売上高は1,700億円に達し、買収後は2,000億円を超える規模となりました。

COVID-19パンデミックと市場の激変

2020年2月28日、ソーシャルメディア上の誤情報をきっかけに、全国規模のトイレットペーパー買い占め騒動が発生しました。通常の3倍の需要が発生し、製造能力は十分にあったにもかかわらず、流通のボトルネックにより全国的な品薄状態が生じました。日本製紙連合会は、トイレットペーパーの輸入依存度はわずか2.3%であり、供給に問題はないことを繰り返し発表しましたが、パニックは数週間続きました。

この騒動は1973年のオイルショック時のパニックや2011年の東日本大震災後の買い占めと比較され、日本社会におけるトイレットペーパーの重要性を改めて浮き彫りにしました。パンデミック期間中は在宅勤務の増加により家庭用需要が増加し、業務用需要が減少するという構造的な変化が生じました。オンライン販売は2024年までに売上の4.0%に達し、年率5.84%で成長を続けています。

地域性と生産拠点の特徴

日本のトイレットペーパー市場における最大の地域的特徴は、静岡県富士市における圧倒的な生産集中です。富士市は全国生産量の40%(2018年:317,946トン)を占め、90以上の製紙工場が集積しています。この集中の理由は、富士山からの豊富な地下水と富士川の表流水にあります。製紙には1トンの紙に対して100トンの水が必要とされ、富士山の火山性土壌を通じた天然の濾過システムが高品質な紙の生産を可能にしています。

富士市の主要メーカーには、1955年設立の丸富製紙(芯なしトイレットペーパーのパイオニア)、1日130万ロールの生産能力を持つコアレックス信栄(リサイクル困難な廃棄物からの再生紙専門)などがあります。さらに、富士市から東京まで新幹線で70分という立地の良さも、大消費地への供給拠点として理想的です。

消費傾向の地域差も顕著で、関東地方では75%が2枚重ねを好む一方、関西地方では51%が1枚重ねを選んでいます。これは関西の「倹約文化」を反映しており、1枚重ねの方が長尺で経済的という認識が根強いためです。東海地方は82%が2枚重ねを好み、全国で最も高い比率を示しています。東北地方も77%と高い2枚重ね選好率を示しており、東日本が西日本よりも高品質志向が強いことが明らかになっています。

現在の市場構造と競争戦略

2025年現在、日本のトイレットペーパー市場は3,760億円規模となっており、2029年までに年率4.19%で成長すると予測されています。一人当たりの消費量は年間9.4kgで、2029年までに12億kgの市場規模が見込まれています。市場は寡占構造が定着しており、上位3社(大王製紙、日本製紙クレシア、王子ネピア)が主要なシェアを占めています。

価格戦略においては、2023年に大王製紙が会社史上最大となる20%以上の価格引き上げを実施し、他社もこれに追随しました。これは原材料の72.9%を占める輸入パルプ価格の高騰(2021年1月の70,957円/トンから2022年11月の175,346円/トンへ)と円安の影響によるものです。プレミアム製品は標準品の1.5~2倍の価格で販売され、望月製紙の手作り3枚重ね「羽美翔」のような超高級品は8ロールセットで約10,000円という価格設定になっています。

製品差別化戦略としては、各社が長尺化(標準の6倍長製品)、香り付き(フローラルやアロマテラピー)、環境配慮型(FSC認証、竹繊維使用)などを推進しています。特に日本の温水洗浄便座普及率80.2%という特殊な市場環境を反映し、ウォシュレット対応の高吸収性製品やコンパクトな詰替用ロールなど、日本独自の製品開発が進んでいます。

流通面では、スーパーマーケットとドラッグストアが主要チャネル(2024年:オフライン小売の54.78%)を占めていますが、eコマースが年率5.84%で急成長しています。テレビ広告費は2029年に139.7億ドルが見込まれており、日本特有の「ソフトセル」アプローチによって品質と職人技を強調したマーケティングが継続されています。

将来展望と課題

日本のトイレットペーパー市場は、人口減少という長期的な逆風に直面しています。しかし、観光業の回復による業務用需要の増加、プレミアム製品へのシフト、環境配慮型製品の成長などが市場を下支えすると予想されています。業界はさらなる統合が進む可能性があり、東南アジアなど成長市場への展開も視野に入れています。

技術革新の面では、IoTを活用した在庫管理システムの導入、生分解性の向上、製造工程でのCO2削減(2025年までにScope1+2で30%削減目標)などが進められています。また、製紙産業の水使用量削減(リサイクル率80%以上)や持続可能な森林管理の推進といった取り組みも強化され、環境対応が競争力の源泉となっています。

日本のトイレットペーパー市場は、戦後の復興期から高度経済成長、バブル経済とその崩壊、そして現在の成熟期まで、日本経済の変遷と共に歩んできました。富士市を中心とした強固な生産基盤、地域ごとの消費特性、そして環境意識の高まりという日本独自の市場特性を持ちながら、グローバル化と人口減少という新たな挑戦に直面しています。しかし、高い技術力と品質へのこだわり、そして環境対応という強みを活かし、今後も独自の発展を遂げていくことが期待されています。

まとめ

2025年現在の市場規模3,760億円が、2029年までに年率4.19%で成長すると予測されています。一人当たり消費量も年間9.4kgから増加傾向にあり、成熟市場ながら着実な成長が見込まれています。しかしながら、原材料高騰により、今後も年2-3%程度の値上げが続く可能性があり、価格は確実に上昇を続けると見込まれています。そういった意味でも、安く買う.comで安くて高品質な商品を見極めて備蓄をしていくことがおすすめです。

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安く買う.com 編集部

日用品の価格比較に特化した専門チーム。Amazon内で販売される商品の価格データを日々収集・分析し、 本当にお得な商品を見つけるお手伝いをしています。「単価で比較」をモットーに、 見かけの価格に惑わされない賢い買い物術を発信中。